[講演録]
第147回講演会 日時:平成21年6月10日(水) 場所:霞ヶ関ビル35階 東海大学校友会館
迷走するマンション業界
株式会社 不動産経済研究所 代表取締役社長 角田 勝司
■はじめに
ただいまご紹介に与りました不動産経済研究所の角田です。本日も沢山の方々にご聴講頂き、誠に有り難うございます。この土地総合研究所主催の講演会で、毎年一回、「マンション市場の動向」について、お話する機会を頂いております。昨年は5月19日でした。演題はなんと「激変!マンション市場」でありました。1年を経た、本日のテーマとしても、それほどおかしくない演題だった、と、この場で自讃する次第であります。それも、講演を行っていたその当日から、世界と日本の経済活動が、激変し始め、激落のスピードが速まった、ように思われます。激変!はマンション市場という、極めてミクロなマーケット動向に留まらず、アメリカ一極依存の国際経済システムが激変し始めたという、100年に一度といわれる地殻変動が忍び寄って来ていた、まさに、激変時に当たっていたのであります。
昨年はサブプライムローン問題、自動車業界の過剰生産の行方、不動産投資ファンドの動向、反都市化活動一派の超性善説が相変わらず世間に跋扈していること、そして現在の漠然とした社会心理を醸成している不安感、不信感の根源には不老長寿化が一層進んで、それが欲望の過剰を生み、医療、年金などの将来不安を増幅している、と、脱線した比喩話から始めていました。ところが、その脱線的独断が正しかったのであります。ほとんど全員が大外れの株価予想となったアナリスト界でしたら、的中ランキングの上位に入れたのは間違いありません。しかも臆面もなく彼らの多くは、今年も5月末暴落説を性懲りもなく予想し、それも大外れです。最もリスク要因の多いと判定された不動産セクターの株価推移を改めて確認してください。年初来高値銘柄がいくつもあります。ちなみに資料22ページの1月3日の株価表で、破綻した7社以外の株式を取引開始日に買っていれば、と後講釈するのはタラレバの予想家になってしまいますから、話題を変えます。
そう言うからには、お前の予想はどうだった、ということでしたら、昨年の講演録は「土地総合研究」の2009年冬号に収録されております。土地総合研究所のWEBでも読めます。私もつい先週、お手元のレジュメを作らなければならないので、読み返しました。我ながらとても面白くまとまっている、講演ライブでありました。しかしながら、贔屓目で判定すると、脱線話の方が、その後の経済激動現象を真っ当に見通しているように思われました。それに比べて、肝心のマンション市場、不動産需給動向については、夜郎自大的な大変甘い市況判断をしてしまっていた、と反省しております。マンション市況は「激変!」の後も、「激落」が続き、「ピンチの後に大ピンチあり」(項目8)を覚悟しなければならない、と、厳しく警告しておくべきだった、と思っております。というわけで、今日は皆さん方の期待どおり、厳しい話をしなければならないようです。
さて、激変!の後はどうなるのか、昨年お話した「新・新マンション価格」をリセットして「都心居住実現の再新価格」になるまでは、マンション業界の迷走現象が続くのではないか、と見ております。今のような迷走状況とは、不動産と金融が融合した時代の開発事業リスクをいかに克服するかという大難問、これからも金融破綻の連鎖に巻き込まれ、リファイナンス難が続くのではないか、という緊急危機対応、新規物件の供給計画が大幅に遅れてしまっていることへの供給回復策、新規マンション需要がそもそも復活しないのではないか、という根本的課題等、これらの課題に挑んでいかないと、閉塞環境がこれからも続いていく、ということです。マンション業界が、自ら激変対応の新戦略商品を開発、供給、販売するまでは迷走、低迷が続くことになります。そこで、題して「迷走するマンション業界」といたしました。ドンピシャリのキャッチコピーだと、またも自讃する次第であります。評価は話が終わってから頂くことにします。
■昨年の「激変!」のダイジェスト
それでは、初めてお聞きになる方もおられますから、昨年の講演のダイジェストから入っていきたいと思います。レジュメの最初に、「激変!2008年のマンション市場」として、再掲しております。マンション市場の激変現象を、@需給の激変、A価格の激変、B業界の激変、Cユーザーの激変、の順に激変の様相を説明いたしました。まず、マンション市場の先行・基礎指標となっている、マンション着工の動きですが、建築基準法の改正による厳格化で建築確認作業が大幅に停滞、07年年間の全国ベースのマンション着工は16万8918戸で、前年06年の24万1826戸に比べ、7万2908戸、34%減でした。首都圏は33.3%減、近畿圏は20.0%減でした。この激減ぶりを、07年の下半期(7月〜12月)に限ると、全国ベースでは58.9%減、首都圏は61.8%減、近畿圏は50.7%減でした。半減を突き抜けています。こうした着工動向の激落は短期間に急回復するものではなく、かなり長期化することになろう、と見込んでいました。また、販売状況も、“売り惜しみから売りそびれ”、とサブキャッチに示しているように、供給減少にともない、売れ行きスピードもやはり落ちてきました。当社が毎月まとめている新築マンションの売れ行きデータによると、07年上期の契約率は75.2%だったのが、07年下期の平均は65.0%と、70%の好調ラインを割り込みました。特に07年12月期は59.3%、08年1月も52.7%と半分も売れず、販売急降下を示しております。したがって完成在庫も増え、「東久留米ショック」といわれる大手業者による大型物件の大幅値下げ事例が話題となりました。
第2に、マンション価格が急上昇し始めていました。“値下がりから値上がりへ”という激しい価格変化が起きていました。マンション価格は94年に“新マンション時代”に入ってから、02年、03年まで延べ9年間以上の長期間、値下がりを続けていました。ところが、マンション立地が都心回避を始めてから、つまり埼玉、千葉の両県の供給シェアが増えてきたころから、マンション価格もいつものように上昇基調に向かい始めました。それから次第に上昇率が一挙に高くなり、上昇するエリアも遠郊外部に広がり出しました。07年のマンション価格は4644万円、1u61.4万円で、06年の4200万円、55.5万円に比べて、444万円、10.6%、5.9万円、10.6%それぞれ二桁の値上がりをしています。08年に入ってからもこの上昇基調は変わらず、とりわけ都心部の価格は2割以上高い、新・新価格物件が次々と発売されました。それにつれて、郊外部でも1割近く上がった新価格物件が増え始めました。そしてついに、売れ行きが急速に鈍化、それが完成在庫の増加に結びつきます。
第3には、マンション業界に新興企業が次々と参入し、その供給力の伸びが著しく、供給上位ランクに複数社が新登場するようになりました。07年には29年間の長期にわたって全国でトップ供給を維持していた大京が一挙に4位に転落、高松に本社を置く、地方中小都市域を中心に供給していた穴吹工務店がトップになりました。日本綜合地所が6位、プレサンスコーポレーションが16位に入っています。穴吹興産やマリモも地方都市で供給を伸ばし始めていました。90年代、バブル期までの上場不動産企業はたった37社でしたが、08年初頭には129社を数えるまでに増加しました。もちろん、そのほかに上場予備軍が50社以上控えていました。加えて、Jリート市場にも42銘柄、上場しています。しかし、07年下期に横浜市内の中小マンション業者が、茨城県南部に建てた新築マンションが売れず、3社が資金繰り難で連続して破綻、過剰投資、販売不振による新興マンション業者への信用リスクが高まってきました。上場企業を含んだマンション業者の資金繰り破綻、突然死が急増し始めるのはここでの講演が終へた直後からのことです。また、金融機関による不動産業へのリスク管理の強化=新貸し渋りも始まっており、サブプライムローン問題による外資ファンドの撤退もほどなく始まる前夜でありました。マンション業界も純増から統合、破綻へと淘汰、選別がいよいよ始まることになります。
第4はマンションユーザーの購入行動が一挙に沈静化してしまったことです。資料19〜21ページの長谷工アーベストの購入者データにみられるように、購入者の半数以上は団塊ジュニア、団塊ジュニア・ネクストの30代です。分譲価格の上昇が急ピッチに進んだため、先買い、背伸び購入を諦めざるをえなくなり、マンション購入意欲が一段と沈静化してしまいました。もともと、団塊ジュニア世代のサラリーマン所得は長期間、伸び悩み、加えてボーナス支給額などが低下していたこともあり、価格上昇を契機に、諦め易かったことで、即購入意欲のブレーキを踏まれてしまいました。そうなると、結婚、子育て、住み替えを契機とした基礎的購入者層も選別買いに動きます。また、都心部の高額マンションは外資系金融機関やファンドビジネス関係者など、年収3000万円から5000万円クラスが主な新規購入層でしたから、今春完成した超高層億ションはリーマンショックのリストラ余波で、引渡しの際に大量のドタキャンに見舞われました。いまだ、億ション市場は投資型購入が復活せず、壊滅状態のままとなっております。
このように、マンション市場の激変の意味するところは、第一に、供給激減による市場規模の大幅縮小、第二に、価格上昇による需要激減、第三に、マンション業者の淘汰、が固有の激変現象であった、と解説しておりました。そしてこの激変が、新マンション時代の終わり、つまり、大量需給市場は終わった、ことを再確認し、次の質的時代への事業リセット、再新価格時代への戦略構築を、求めました。そして2008年の重大問題、目先の最優先すべき生き残り対策は、@長期成長戦略ではなく、短期成果戦略で目先の危機を抜け出すために、「完成在庫処理」を早く行うこと。つまりは直ちに損切りに踏み切ること、だと断定しています。Aは業界全体で建築費のアップへの対処策の必要性、Bは緊急避難企画として、総額抑制型のコンパクトマンションを増やすこと、Cは営業力の再強化が不可欠であること、Dはサブプライムローンの余波はまだ続く、などを挙げています。最後に新・新マンション企画として、面白いマンション企画を提案して欲しい、としております。「超高額」とか「超高品質」とか「超・超高層」とか「超耐久」とか「極都心志向」とかを掲げたスーパーブランド再構築を、としています。そういう方向に挑戦しないと、「当分完成在庫増、販売泥仕合、値下げ、破綻、淘汰を覚悟しなければなりません」、と、いつもの捨て台詞で終わっておりました。お浚いはここまでとします。
■迷走・マンション業界
昨年まで続けていた講演主題は「マンション市場の需給動向」について、がメインでしたが、今年は「マンション業界」の栄枯盛衰を中心に話を進めていきたいと思っております。そこで資料24ページの破綻の類型リスト、不動産、マンション、建設業界の「デスノート」ですが、このリストに載っている、全ての企業の創立、発展、没落の軌跡は、その業界の激動の歴史とその企業の特異性を現しています。それぞれの経営者、とりわけ振興マンション企業の創立者は波乱万丈のエピソードに溢れ、その立志伝的自伝が何冊も刊行されています。破綻企業の経営者にとっては、需給が絶好調だった「新マンション時代」は縦横に事業を拡大できる戦国乱世そのものだった、ようです。早くも再起を図って動きはじめた方もいらっしゃるようです。新興企業といっても、オイルショックやバブル期の大激変期を乗り越えた経営者も多くおります。以外と寡黙な方が多かった印象です。もちろん極端に饒舌の方もいました。ただし一旦成長戦略が躓くと、不動産と金融が直結、融合した短期のノンリコース資金を借り入れていたので、開き直ればどうにかなる、とはいかなかったようです。このノートに乗っている破綻企業の総負債額は約3兆円になっています。これほどの上場企業が短期間に多く輩出したことも史上初でしたが、これほどの上場企業が短期間に破綻したことも初めてです。
市場動向問題からちょっとハズレてしまうジンクス話ですが、不動産業界人が「ロマン」を語りだすと、不動産市場が不思議と悪化します。投資ファンド業界も同じ狢(むじな)が棲んでいるようです。ハイリターンビジネスを仕組んだ人たちの超高額報酬を囃された帰結は、サブプライムローンのような詐欺商品、偽装収益スキームに結実してしまいました。「投資の世界は腹黒かった」後始末に、国家資金が投じられています。「ヒトラーの経済政策」(武田知弘著、祥伝社新書)には、当初は国債大量発行による大盤振る舞いの景気対策が奏功し、急激に景気回復したものの、勢い余って、侵略戦争になってしまった経緯が説明されています。バラ撒きの怖さです。
ところで、マンション業界といっても分譲マンション業に絞った部門のことですが、資料23ページに過去10年間の全国ランキング表があります。そこに登場している企業が大手業者です。上位ランクにはマンション専業ではない大和ハウス工業、積水ハウスの2大住宅メーカーが入っています。また未上場会社も多く、例えば三井不動産レジデンシャル、穴吹工務店、オリックス不動産、マリモ、近鉄不動産、新日鉄都市開発、総合地所、名鉄不動産などです。ナイス、丸紅などの他業態企業も、コンスタントに年1000戸以上を供給しています。500戸前後には電鉄系、独立系などが登場しています。バブル期に多かった金融系のマンション業者は消え、建設業界の系列分譲業者も復活しておりません。
首都圏でマンション分譲を行った会社は08年で228社でした。07年が281社、06年が292社、05年が331社、04年が335社でしたから、5年間でなんと100社以上が退場しています。ちなみに2001年には432社でしたから、8年間でほぼ半減したことになります。10年もたたずに、約200社の新規参入があって、もちろん復活組も少しありますが、200社もの退場があったということは、分譲マンション事業はかなりのリスクがある特異な事業分野である、ということになります。上位ランク入り企業でも毎年継続して1000戸以上の供給を続けるのは容易でなく、当社のランキングが常に入れ替わっているのは、大量供給後のマンションが全て完売するものではないことを意味するものです。確実に販売を進捗させないと、在庫が累増し、新たな事業展開ができなります。94年から始まった、新マンション時代では各期末に、繰越完成在庫をほとんど抱えることのない好調な売れ行きが続き、新規参入企業も多く、大量供給、大量販売が続けられました。バブル経済崩壊後の資産デフレに便乗した、「後入れ、先出し」によるコストダウンが出来たからです。ところが、在庫無しの至福の時代は価格上昇と立地の郊外化によっていつも終わります。その結末が「破綻の類型」に帰結します。それが兵者どものデスノートです。
ゴシック表示は今年になってから破綻した企業名です。なおカッコ付きはバブル期に一度遭難し、再生サルベージされた二重遭難組となります。最下段のバブル清算会社と違って、新規マンション供給を再び積極化していた会社です。ダイア建設、ニチモ、アゼルなどがそれで、再生してからも、郊外部に大型物件を開発、投資用ワンルームの販売に失敗したケースとなっています。新興上場会社区分のアーバンコーポレイション、ゼファー、日本綜合地所、モリモト、ジョイント・コーポレーション、ダイナシティなど、直前決算は大幅黒字でしたから、年間売上高を超える巨額借入金のリファイナンスを咎められたと思われます。資金繰り懸念条項が注記された後の経営改善計画では、各社とも1000億円をメドとした削減を強いられています。また、短期収益を狙った流動化事業の売り上げ割合が多かったことも、急速な金融危機のトバッチリで突然死に至った破綻ケースです。大型リゾート開発や地方都市への進出、さらには高度商業地の未開発更地を取得、投資したことが、オーバーランとみなされたようです。
しかし、経営者の個性が色濃く出たオリジナル企画のマンション物件を供給しており、アーバンコーポレイションの広島中心部の超高層マンション、ゼファーの千葉・ザウス再開発、日本綜合地所の金沢文庫開発、4mバルコニー企画、モリモトのデザイナーズマンション、ジョイント・コーポレーションの熱海リゾート、京都駅前商業ビルなど、メモリアルな物件開発力がありました。それだけに短期間に急成長、急拡大したことで、事業ロマンに飲み込まれ、バランスシートを置き去り、拡大経営を続けたと思われます。あと3、4年の間、彼らが走り続けたら都市再生、地域再生に新しい事業ロマン・ストックが実現していたことでしょう。シーズクリエイト、ヒューマン21、ノエル、エスグラントコーポレーション、中央コーポレーション、デイックスクロキなども経営者の個性が強烈で、流動化事業の頓挫でロマンが破れたケースです。用地取得の急ぎ過ぎと事業の急拡大に応じ資金手当て、組織体制、人材が欠けてしまったことも敗因でしょう。
三段目の新興マンション業者の破綻も、個性の強い経営者を支える将軍役の人材がいませんでした。独断独走して失敗物件を抱えてしまったことが破綻の直接的理由だと思われます。五段目の大阪、広島、福岡、名古屋が本社の破綻企業も個性的創業者に率いられていましたが、業容拡大に人材が追い付かずに、多くの未完成物件と未契約在庫を残しています。マンション工事の未回収金の発生で連鎖破綻した建設会社も多くなっています。直截的にはマンション工事の未収ですが、地場で一番の建設会社が多いのは、地元の工事量の減少による体力疲弊が進んでいたのも要因です。今後もこうした連鎖破綻を避けるため、マンション工事の選別受注と与信調査を厳格化しなければならず、そのため中小マンション業者の工事発注と支払条件はますます厳しくなりそうです。問題なのはこうした破綻企業の急増にも関わらず、再生ファンドの買収、墓場のダンサーが現れず、そのまま自己破産、整理される企業が多いことです。建設業者の再生例はまだ数社です。それが、バブル期直後の倒産事例と異なる平成倒産事情です。アーバンコーポレイション、ゼファー、シーズクリエイト等も分解整理されつつあります。
さらに、22ページの上場会社116社は1月3日現在ですが、すでに7社が脱落、そのほかに11社には3月期決算報告については、ゴーインゴコンサーン注記がついております。1月から株価は軒並み大幅な値上がりをしていますが、まだまだリファイナンス難は続いているようです。しかし上場予備軍がまだ控えています。今月23日には久し振りにヒューリックに続いて、常和ホールディングスが東証2部に上場します。それに続こうとしている新興業者の上場審査はかなり難しくなっているようです。それでも、この業界は捲土重来が可能です。飽くなきロマンが語られなければ、面白くないものです。 ■迷走・マンション供給(遅れる市況対応) マンション発売が減少し続けています。着工もなかなか回復する動きが見えません。勢いがあったが破綻してしまった新興企業の供給力が年間約3万戸でしたから、この未実現供給分も大きな減少要因となっています。販売在庫量も3月期末を境に少しずつ減っていますが、新規物件の発売が先延ばしされています。破綻企業の再販物件の処理も、共食い的仕入れも一部エリアで起きていましたが、大量の再販物件が次々に販売できることはないため、そろそろ量的には峠を越えたはずです。それがいまだ、既発売物件の処理に手間取っているのは、郊外部の大型物件の売れ行きが゙伸びていないこと、大手業者が値下げ処分に踏み切らないこと、建築費が決まらず、次の新規物件の着工に逡巡していること、などが要因だと思われます。郊外大型物件の販促はいつも難しいのですが、今回も一旦需要離れしてしまうと、1、2割の値引きではインパクト集客にはなりません。都心回避リスクとはこうした販売結果に表れるものです。足掻きながら処理しなければなりません。
しかし早期に処分しなければ市場に悪影響がいつまでも残ります。今度も、遠郊外部ではやはり需要力無視のフライング供給となったようです。余りにも販売が旨く運びすぎたために、マンション業界はまたも急拡大に走ってしまいました。都心部の用地取得競争が過熱、そこにファンド資金が投じられましたから、一層の高値取得買いになってしまいました。04年ごろから高値買い競争が始まりました。07年からの新価格物件はこうしたマンション業者間同士のコストアップの直接的反映です。耐震偽装後の建築基準法の改正で、供給の勢いが止められたことも、供給減の大きな要因ですが、新価格マンションの売れ行き鈍化も供給減に繋がっています。特に新興企業はより高い売上を計画し、より大型の物件を仕込みました。これが好調に売れてしまう市況であったら営業部隊などは必要ありませんでしたが、売れなくなると、営業マンがいくらいても足りなくなるものです。売れ残りが増えてくると、周辺の物件の販売期間が長期化し、ユーザーの検討時間も長くなり、歩留まりも低下します。集客が少ないなかで販促資料の作成などフォロー仕事も多くなります。競合物件も多くなります。つまり、市況局面は一瞬にして供給過剰に転化してしまったのです。これが早く売れてしまう時は沢山のユーザーが買いに来てくれ、競合物件は見当たらず、説明トークも短くて済んでしまったものです。これこそが、市況の変化の習性であり、分譲事業の怖さなのであります。ただし、不況期はいつもこのような様相でした。またも繰り返しているのです。戦略なき業界のマンション供給競争の一端が見られます。都心部の新・新価格は不動産の金融証券化に乗った外部資金を誘導した帰結です。資料11ページに主要ブランドポイント地の直近5年間の坪単価推移があります。バブル期ほどの急騰はしていませんが、05年の分譲単価と比べると、06年から07年にかけて新・新価格に転換しています。さすがに08年に入ってから慎重な値付けをしていることが、窺われます。
ところが、この抑制価格がすぐにユーザーには受け入れられず、販売がスムースに進んでいません。新規物件の売れ残りが増えていることでそれがわかります。9、10ページの02、03年次水準までの底値単価までにはまだまだ値下がりしていません。ユーザー意識の怖いところは、底値価格がいまだに残存しているからです。また、過去の価格上昇期のように、供給が無くなってしまうという飢餓感、焦燥感がありません。都心部供給の復活が可能なことを経験、都市再生による再開発型マンションが多数出現することを見越しているからです。マンション商品購入は消費財的選別行動と同じ意識になっているようです。市場の迷走、過度期に現れた破綻会社の再販物件は延べにすると5,000戸くらいです。最盛期の一ヶ月分ほどの販売量です。アウトレットマンションとしてネーミングされ、新築値下げが囃されました。ただ、いまだ残戸処理をしている再販売現場がいくつもあり、再販営業の秘訣に習熟していないことを暴露しています。安く仕入れた物件は安く転売する見切り千両が要諦なのです。1、2割ダウンくらいではイメージ゙が棄損した商品は売れません。それ以上の値引きが必要です。先日、日吉の再販物件には30数社が押し掛けたようですが、見込んでいたほど、安くは買えなかったようです。しかし、それだけ多くの業者が再販マンションに集中したことは、新規発売物件の大幅不足を示しているものです。
■迷走・マンション需要(投資・先買いの激減)
サブプライムローンの悪影響はユーザーに住宅ローン支払いの大変さをイメージで刷り込んだことです。アメリカ郊外で追いたてをくらった、人たちの映像をテレビであれだけ反復して見せられれば、住宅ローン借入の警戒心がどうしても強まります。また、不況によるボーナス減や所得減で日本でもローン破産が増えてきた、などと繰り返して伝えられると、取得意欲が当然削がれます。高額物件を購入していた高額年俸者達も金融ビジネス界の危機で少なくなっていることも、新・新価格の浸透に失敗してしまった要因です。外資系人材紹介会社の調べでは、08年1月から09年03月までに外資系金融機関の人員削減は約4300人、これは全従業員2万7800人の15.5%に相当するそうです。このうちの1,000人くらいは都心新築マンションのユーザーだったとみられ、3月末の引き渡し時にはドタキャンが目立ちました。それを埋めるべき2番目、3番目に予定していたユーザーも消えてしまった、とある大手マンション業者が嘆いていました。億ションは金融商品でもあったのであります。
資料19ページから21ページの長谷工アーベストのマンション購入者データによると、07年と08年には年齢構成比で団塊ジュニアである30代が50%を超えています。さらに08年には団塊ジュニア・ネクスト層である30代前半の世代が大きく増えてきています。問題は購入価格が07年3927万円、08年3959万円と06年の3648万円に比べて300万円ほど上昇しているにもかかわらず、自己資金額が07年の890万円から08年は764万円に激減していることです。ただし年収は07年の646万円から08年は674万円に上昇しています。このことはマンションユーザーが十分な資金計画を持っておらず、値上がりにたいする防衛的購入を一部が行っていることを窺えさせます。また年収が上がり続けている人達しか購入できなくなっているのですから、所得減が続いている現状では、今後、取得力の一層の減退が避けられない、と見込まれます。価格上昇が需要の減少に直接的に結び付いている購入者データであります。
■激変・2008年のマンション市場
マンション着工動向から見ると、08年の上期は確認作業の遅れの影響が引き続き、下期に入ってようやく、前年を上回ってきています。これは反動増でしょう。資料4ページ、全国ベースの着工ですが、08年は18万2572戸で前年比8.1%増、99年の18万4668戸水準です。首都圏は10万726戸で同20.6%増、これも99年並みです。近畿圏は3万3258戸でマイナス11%、中部圏は1万2932戸で同7.4%増、その他地区は3万5656戸でマイナス0.9%減でした。首都圏の内訳は東京都が5万924戸で17.3%増、神奈川県が2万3374戸で31.2%増、埼玉県が1万3802戸で26.8%増、千葉県が1万2626戸で11.1%増と全域で増加しております。ところが、6、7ページの当社の発売戸数データでは08年の新規発売戸数は4万3733戸と前年比28.3%も減少、それも下期になるほど発売率が落ちています。郊外部の発売が、特に千葉県と埼玉県の発売が半減状態になっています。東京都区部は06年から激減し始めましたが、郊外部は販売不振を反映するようになってから急減してきています。ちなみに4万戸台はなんと93年の4万4270戸以来の14年ぶりの低水準となります。
一方、08年の総販売戸数は4万2069戸で07年比28%減となります。18年ぶりの低販売量に落ち込んでしまいました。供給戸数が前年比28.3%も減っているのに、売れ行きスピードを示す、初月契約率は平均で62.7%に落ち込みました。これも91年の58.3%以来という低水準です。マンション販売が需給とも急減速していることを現しております。また売れ残りは08年末現在で1万2427戸、07年末の1万763戸に比べて1664戸の増加です。そのうちの完成在庫は08年末現在で6064戸、07年の3076戸に比べ、約2倍増となっています。完成在庫率が48.8%と非常に高くなっており、販売状況がさらに鈍化、悪化しています。また、不動産ファンド向け一棟売りも、リーマンショック以後、解約が相次いでいます。なにしろ「ファンド戻し」ともいえる、ファンド取得物件の戸別売り再販も市場に出てきています。ファンド運営業者のリファイナンス難が表面化している現れです。これが、ファンド向け売却、流動化事業に依存していた新興マンション業者の破綻につながることになります。マンション価格は上昇基調が止まりませんでした。07年の4644万円、61.4万円に比べて、08年は4775万円、65.0万円です。郊外部の値上がりが続きました。原価の積み上げによる価格設定で強引に売り込もうとしたものでした。92年の5066万円、80.0万円以来という高値水準になっています。価格上昇による販売鈍化はマンション業界自身の急拡大戦略の結果から生じたもので、急には止まらない。こうして、在庫販促に苦心することになります。
■迷走・09年のマンション市場
今年のマンション市場ですが、ようやく4月になって、新規発売物件率が増えてきています。供給減少幅も小さくなり、在庫戸数も序所に減ってきています。4月は新規発売シェアが増えて、低迷していた市況の転換期となったのではないか、と解説したところ、マスコミ論調も少しは回復期待になってきたようです。5月の連休には値下げ物件はにぎわったようです。ただし、大手業者が自社分の物件には来訪者数が2、3割増えてきたようだと報告していますが、中小業者の販売物件がほとんど無くなっているのですから、販売中の大手業者の物件に回遊するのは当然で、2、3、割増くらいでは需要回復したことにはなりません。市況ムードは景気後退、ボーナス減の影響で、衝動買い顧客に動きがみられず、発売量は予定したほど増えていません。供給が半減しているのですから5割以上の集客がないと市況が回復していることにはなりません。大手業者の細切れ、小戸数発売がまだまだ続いていることが、絶対量の需要が増えていないことを示しています。業界人の市況判断もいまだに迷走中です。09年1月から4月のマンション着工は再び激減基調に転じております。全国ベースでは前年同期が6万9449戸、今年が3万7779戸、45.6%減です。首都圏は3万8709戸に比べ、2万92戸で48.1%減、近畿圏は1万4481戸に比べ8020戸で44.6%減、中部圏は4226戸に比べ、2858戸で32.4%減、その他地区は1万2083戸に比べ、6809戸で43.6%減です。全体の住宅着工は資料3ページに見られるように、4月期は着工統計が始まってから最低の年率換算77万9000戸という歴史的低水準にまで落ち込んでいます。4ヶ月連続して年率100万戸割れです。いよいよ、昭和42年以来続いてきた100万戸時代の終わりです。元気なのは官舎建設だけです。4月は6倍にも増えている。住宅規模もどんどん小さくなっています。発売戸数も依然増えていません。1月から4月間の発売は9280戸で前年同期の1万3091戸に比べて3811戸、29.1%減、このままでは6月までに到底2万戸にも届きそうもありません。年間4万戸も見込めない、という超低調さです。
当社の調査部のオリジナルデータによれば、個別物件の発売計画を基礎に算出した各月の総発売見込み戸数に対する実発売率は、年初見込みの14.5%に対し、4月までの実績では10%に下がってきています。とりわけ大手業者の発売率は9.2%とさらに抑制基調となっています。となると、年間では3万5000戸から4万戸にしかなりません。こうした方法から算出した発売率の実績は05年が21%、06年は20%、07年は19.5%、08年は14.5%でしたから、異常な低発売率となっています。昨年の着工は落ちていませんから、いかにマンション業者が需要減少に対して慎重な姿勢で、競合物件を牽制しているか、窺えます。5月の破綻企業はジョイント。・コーポレーションのみでおさまり、期末危機も建築費のジャンプで助かったようです。しかし、不動産業向け融資残高は昨年の第2四半期でピークとなり、残高は08年12月末で約59兆円、07年末比では約6000億円の減少となっています。なにしろ03年末には51兆円までに落ち込んでいた貸出し残高が5年間で8兆円もの純増だっただけに、昨年6月以降の純減、引き締めは致命傷となっております。Jリート市場の推移をみても最高6兆8000億円の時価評価が今や2兆5000億円に縮小、投資口価格も公募価格を上回っているのは41銘柄のうちたった5銘柄のみとなっています。しかも、09年3月期は大手企業のうちの新規ビルの稼動が好調であった、ほんの数社だけが黒字計上、あとの100社以上が赤字決算という惨状でした。売上高は各社とも激減しています。さらに、会計法の変更で、値下げは全物件を評価損計上、低価法の導入によって未開発用地の減損で大幅赤字を計上する企業が多くなっています。
■価格上昇分の6割が建築費の上昇
ところで、マンション建築費はやはり大幅に上昇しています。そこで、昨年と同じ基礎データを使って比較してみました。08年10月から今年3月までの6カ月間に着工した、規模100戸以上、ファミリー型物件は58棟、延べ1万1638戸ありました。これはこの間の全マンション着工数の3万4425戸に対して33.8%に相当いたします。昨年同期は77棟、延べ1万6224戸ありましたから、大規模マンションは3割ほど減っています。その1戸当たりの建築費は2159万円、坪単価で78万8000円でした。昨年同期の建築費は2033万円、坪74万3000円でしたから、1戸当たり126万円、6.2%、坪4万5000円、6.1%のアップです。ちなみに一昨年の建築費は1809万円、坪58万7000円でした。2年間で350万円、坪20万1000円高くなっています。
次に超高層物件、20階以上は9棟、延べ2293戸ありました。その1戸当たりの建築費は2861万円、坪88万7000円でした。昨年は3019万円、坪99万9000円でした。158万円、11万2000円低くなっています。ただし昨年は都心部、赤坂、品川の41階、44階建ての高級超高層物件がありましたから高かったと思われます。また19階建て以下の中高層物件が49棟、延べ9345戸ありました。これの1戸あたりの建築費は1987万円、坪75万8000円でした。昨年は1718万円、坪64万9000円でしたから、269万円、15.7%、坪10万9000円、16.8%の上昇です。06年の平均価格は4200万円、08年は4775万円でしたから2年間の価格上昇が575万円、建築費の上昇分が350万円ですから、価格上昇分の6割が建築費の上昇によるものであったと換算されます。こうした建築費の上昇下で「再新価格」で発売するには、土地代も建築コストも仕切りなおししなければ無理です。まずは大手企業が土地代の「後入れ先出し」に切り替え、その再新価格物件の供給が下期のマンション市場を牽引、先導することになります。
■超高層計画は463棟、約14万戸
14から15ページに超高層マンションの年次別計画戸数のデータがあります。全国で09年の完成予定は153棟、4万2596戸、10年118棟、3万2649戸、11年92棟、3万226戸、12年38棟、1万4503戸、13年以降62棟、2万3852戸、総463棟、14万3826戸となっています。これから超高層マンションの建設がピークを迎えることになります。しかし、この建設計画は建築費の高騰や販売鈍化で多くが先延ばしされているのは周知の通りです。それでも再開発プランはこれからも進められて行きます。特に、首都圏では総分譲戸数の2割ほどは超高層の計画となっております。16から18ページに超大規模マンション計画データがありますが、全146物件、延べ10万3582戸の開発計画の中心には超高層マンション計画が含まれています。この大規模計画の進捗がマンション需給のポテンシャルを測るデータとなるものです。この大規模物件の価格と企画が需要にマッチするのか、それとも売れ残ってしまうのかが今後の市況を大きく左右すると見ています。既に、2年前に完成し、いまだ大部分が売れ残っている郊外部の大規模物件もいくつかあります。これからは余程割安感ある再新価格を打ち出さないと数万人の来訪者を勧誘できない、と思われます。大量集客は勢いに乗らないと難しいものです。
■マンション業界の新戦略、新企画
マンション建築費のアップに対応した建築業界の打開事例として、長谷工コーポーションのBe―Livプロジェクトと穴吹工務店のNewサーパスという、従来の建築費を約3割カットしたローコストの企画商品が出ています。長谷工は川口でモデル物件を既に現場で販売しています。川口の試行物件では玄関の下駄箱やカーテンレールがオプションになっています。近年は共用部の施設や占有部の満艦飾的設備の充足競争になっていただけに、コストアップし易い装備設計となっていました。シンプルイズベストという提案となっています。マンションの新企画としては、ミクロの設備関係でセキュリテイ・防犯機能の高度化、エコ資材、太陽光発電などで新規導入した事例があったものの、全くの新機軸は見当たりません。外断熱工法はどうやら時期尚早だったようです。装飾的デザイン設計、施設完備は維持管理の高コストに繋がり、ランニングコストのアップとなることを嫌って、シンプル設計が多くなっています。長期優良住宅いわゆる200年住宅企画も一戸建てのほうが量的には先行しているようです。マンション市況は、完成在庫を処理しただけでは転換せず、その後に登場する新規物件のインパクトある企画と価格と立地がマッチし、大量のユーザーが集まり、短期完売する事例がいくつか続かないと本格回復しないものです。残念ながら、マンション業界はこれまで専有面積を圧縮したコンパクト化を図って、低価格物件を開発することで窮地の打開を図ってきました。今後は立地を都心回避から都心再回帰へ方向をリターンし、大規模開発を諦めて中小規模物件を手掛ける方向に向かいそうです。
■景気対策(最後の量的住宅需要喚起策)
景気対策として過去最大規模の住宅ローン減税を始め、生前贈与税の500万円非課税増額、住宅金融支援機構の100%融資、金利優遇期間の延長などが需要支援策として措置されました。住宅メーカーは200年住宅の普及促進にこの減税制度、優遇税制を受注増に結び付けるべき販促戦略を積極的に展開しています。しかし、マンション業界はいまだ在庫整理に注力しており、大型減税に適合する新規マンションの供給が遅れ気味です。ユーザーが買いたくなる物件がまだ出せない状態です。なにしろ中堅業者は政策投資銀行の業界向け特別融資につなぎ融資を頼り、民間都市開発機構にマンション用地の持込みを図ったりするなど、資金繰り確保に汲々しており、とても新規物件の建設には取り掛かれない窮地にあります。したがって大手業者が供給を積極的に拡大するチャンスですが、その大手業者も仕掛かり中の大型物件の販売に手間取っており、業績的には新築ビル賃貸部門が好調のため、用地コストの高い新規マンションを急いで供給するリスクを避けているようです。このためせっかくの大型住宅減税もマンション実需の活用に結び付くのは限られてしまっているのが実情です。金利の低い一般金融機関のローン審査基準もまだまだ厳しく、特に低所得層への貸し渋りが目立っています。しかし、今回の補正予算を合わせた住宅取得促進税制と住宅・不動産業への資金配分、景気対策の規模は、住宅業界、住宅市場にとって、最後の量的住宅需要喚起策だと判断すべきで、マンション業界は新規供給を促進することでせっかくの政策に応えるべきであろう。建設業界もマンション受注リスクを補完する建設費回収を新しいファンドスキームで組成すべきでしょう。突然の手形払い拒否となる建設費の出来高払い要求はあまりにもマンション業者の資金繰り負担が重すぎます。土地代も建築費も全額自己資金となると、小規模賃貸マンションを経営するか、分譲マンションは分譲価格が一段と跳ね上がることになります。また大量供給が不可能になり、供給量もさらに激減することになりかねません。内需の柱である住宅建設、とりわけ分譲住宅建設は壊滅することになります。大型減税があってもユーザーには購入できる新築マンション・新築建売が見当たらない、という住宅市場構造になってしまいます。
■マンション業界→ピンチの後に大ピンチあり
マンション建設、販売が半減しているが、住宅取得減税効果もあり、まもなく需給バランスが安定、回復するだろう、という楽観的な見通しも出ています。しかし、そうしたピンチの後にチャンスあり、とする単純な人生訓的サクセスストリーが証明されるのは、過剰供給となっていた業界の業者淘汰が終わり、寡占化し、コスト削減した生産調整を経て、新製品の販売が順調に進んでいる業界に限られます。輸出依存の製造業ではこれから主力製品を海外生産に移行する企業が多くなりそうですし、製造業者が全て廃業したことで全て輸入品となる消費財も増えることでしょう。そうなったらそれまで雇用されていた従業員にとっては工場も無く、派遣も要らずのピンチの後の大ピンチを迎えます。自動車、機械、通信、電機などの輸出依存の産業界がそういう大ピンチにあります。不動産・マンション業界も09年3月期の赤字決算に続いて、10年3月期も業績赤字となる企業が多くなると見込まれます。金融機関からの新規融資が不可能となる2期連続赤字を避けるために手持ち用地や資産を売却してしまうと、今度は次年度の売り上げが確保出来なくなります。マンション事業は単年度で収益を上げられる短期回収型事業ではないので、3期目は起死回生となる物件をどうしても供給しなければなりません。
ところが、大手業者も来年度は新築ビル事業の採算が急速に悪化するために、分譲部門の売り上げを拡大することになります。土地代は既に減損計上し、建築費もネゴシエーションすることが出来ますから、いわゆる「再新価格」で供給することが可能となります。多数の中小マンション業者にとってはようやく新規物件を発売できたとしても、大手業者との競合販売となって、やはりピンチの後に大ピンチに遭遇することになります。バブル崩壊直後のように、新興マンション企業が輩出することも建築費の支払い条件の厳格化で難しくなるでしょう。大手業者は資金力、信用力を活用し、産業界のリストラ土地や公的セクターの放出地を取得し、都心部を主体に「再新価格」物件の発売を供給することになります。立地、沿線を選別し、ピンポイントで需要力探りをしながら、販売することになりそうです。そうした事例を重ねていくことで市況が上向きに転じる契機となります。つまり人気を集められるサプライズ物件の早期発売が迷走からの脱出策なのであります。都心部の公務員宿舎、特別独立法人のリストラ用地自治体の公舎跡地など、これから売却が本格化します。当然絶好のマンション適地も含まれています。地価下落で大規模駅前再開発もこれから再び動き出します。マンション市況問題からハズレますが、ビル事業はこれから本格的に供給過剰時代に突入します。ビル供給ストックは1昨年にバブル景気を惹き起こした都区内の供給不足量予測であった、霞ヶ関ビル100棟分、延べ面積8700fを達成しています。供給目標を10年間ではなく20年間でストック出来たことになります。オーバーサプライズの域に入りつつあり、ビル需給は新たな競争ステージに入ります。この分野も大手業者間同士の競合が激しくなります。ビル業界の03年問題時は中古ビル対新築ビルの競合でしたが、10年問題は新築ビル対新築ビル間のテナント争奪、大手総合不動産会社間の正面衝突となるでしょう。札幌、仙台、福岡等の地方中核都市では早くもその前哨戦が始まっています。
■迷走から抜け出す戦略キーワード
さて、マンション市況の悪化の内在的要因はくどいほど念を押しますが、立地の都心回避と価格上昇です。ただしマンション分譲価格は硬直性が無く市況に合わせて変動するものであり、地価下落、建築費下落に対応するものです。特に94年から03年にかけての持続的価格低下はマンション需要を倍増させ、まさかの都心居住を現実化させました。ここでの講演で当初から指摘しておりましたが、千葉県と埼玉県の新規供給が増えてくると販売が鈍化する兆しであると警鐘していました。今回の市況もこのジンクスの習性から逃れませんでした。安ければ売れる神話はマンション市場では立地条件抜きには成り立ちません。特に、投資商品化した分譲マンション商品は投資効率の低い遠隔地立地を避けるべきでした。不動産投資の基本は都心に在り。全てのビジネスの収益源も都心に在り、と決断して、都心住宅、都心ライフスタイルを提唱、供給販売すべきでしょう。マンション業界が迷走しているのは「都心居住」の主柱を外し、都心回避した過疎・高齢化率の高い旧大陸に向かってマネーを投じ、収益不還元のロマンに殉じたからであります。新・新マンション時代の戦略キーワードはあくまでも「都心居住実現の再新価格」であります。ご清聴ありがとうございました。
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